ハンバーガーメニューへ最適化は思考停止か?

「とりあえず、入り切らないメニューはハンバーガーメニューに入れておきましょう」
WEBサイトの制作現場で、何度この言葉を聞いてきたでしょうか。そして、私自身も何度この言葉を口にしてしまったことでしょうか。スマートフォンの普及とともに、もはや「あって当たり前」のアイコンとなった、あの三本線の記号。

しかし多くのユーザーにとって、それは「開くのが面倒な重い扉」であり、その中に何があるか予想もつかない「ブラックボックス」なのです。

AIが瞬時に答えを提示し、ユーザーの「待てる時間」が極限まで短くなっている現代において、ナビゲーションの不備は致命傷となります。今回は、WEB制作の最前線で私たちが目撃してきた、ハンバーガーメニューを真の価値へと変えるための最適化についてお話しします。

なぜ、ハンバーガーメニューはクリックされないのか

ある時、地方の中堅メーカー様のサイトリニューアルを担当しました。当時のサイトは、それは見事なまでに整理されていました。トップページは美しい写真で埋め尽くされ、全てのメニュー項目は右上のハンバーガーメニュー内に、流れるようなアニメーションと共に格納されていたのです。

私たちは自信満々でした。「これぞモダンなデザインだ」と。

しかし、公開から1ヶ月後、アクセス解析を見て愕然としました。ハンバーガーメニューのクリック率は、私たちが想定していた数値の半分以下。それどころか、最も見てほしいはずの「製品一覧」や「採用情報」へのページ遷移が、リニューアル前よりも目に見えて減っていたのです。

「隠す」ことは「存在しない」ことと同じ

ユーザーは、見えていないものを探してはくれません。
スマホの画面は狭い。だから隠す。このロジックは制作者側の都合に過ぎません。ユーザーは「何があるか分からない場所」をクリックするというリスクを負いたくないのです。特に、目的が明確なBtoBサイトや、切実な悩みを抱えて検索してきたユーザーにとって、メニューを探すという行為はストレス以外の何物でもありません。

ハンバーガーメニューを配置した瞬間、私たちはユーザーに対し「あなたの欲しい情報は、わざわざ一手間かけないと見せませんよ」という不親切な宣言をしている可能性がある。その自覚を持つことから、最適化は始まります。

思考停止の「 junk drawer(ゴミ箱)」から脱却する

海外では、ハンバーガーメニューのことを「Junk Drawer(ゴミ箱、あるいはガラクタ入れ)」と揶揄することがあります。とりあえず片付けたいものを突っ込んで、どこに何があるか分からなくなるキッチンの引き出しと同じだ、という意味です。

最適化の第一歩は、この引き出しの中身をすべて床にぶちまけ、本当に必要なものを選別することにあります。

メニュー項目の整理

  • 一軍(常に見えているべきもの)
    問い合わせ、商品検索、ログインなど、ユーザーの主要な目的。
  • 二軍(隠しても良いが、見つけやすくすべきもの)
    会社概要、ニュース、ブログ、FAQなど。
  • 戦力外(そもそも不要なもの)
    誰も読まない社長の長い挨拶(失礼!)、古いイベント情報、利用規約(フッターで十分)など。

あるECサイトでは、メニュー項目を12個から5個に絞り込み、残りの7個を思い切ってハンバーガーメニューの奥底、あるいはフッターへと追いやりました。その結果、どうなったか。一軍として残した「キャンペーン情報」への流入が激増し、結果として売上が向上したのです。

「あれもこれも載せたい」という社内の要望を調整するのは、WEB担当者にとって最も胃が痛い仕事でしょう。しかし、その「優しさ」がユーザーにとっては「迷い」を生みます。すべてを等しく扱うことは、何も大切にしていないことと同じなのです。

人間工学から見る位置とサイズの「配慮」

ようやく具体的なテクニックの話をしましょう。しかし、これも単なる「デザインの流行」ではなく、人間の身体的な特性に基づいた話です。

右上は本当に正解か?

多くのサイトで、ハンバーガーメニューは右上に配置されています。これは、かつてのPCサイトのヘッダー設計をそのまま引き継いだ「慣習」です。しかし、今のスマートフォンの大きさを考えてみてください。

右利きのユーザーが片手で操作する場合、画面の右上は「最も親指が届きにくい場所」の一つです。iPhoneのPro Maxモデルなど大きい端末を使っているユーザーにとって、右上のアイコンをタップするのは困難です。

一例として、メニューボタンを「画面下部のフローティングメニュー」に変更してみます。これはいわゆる「親指の届く範囲(サムゾーン)」への配置です。これだけで、メニューの開封率は劇的に改善しました。

「そんなの、今までのデザインの常識と違う」という反発もあるでしょう。しかし、常識を守ることと、ユーザーに楽をさせること。どちらがあなたのビジネスにとって重要でしょうか。

「メニュー」という言葉の魔法

三本線のアイコンの横や下に、小さく「MENU」という文字を添える。たったこれだけのことで、クリック率が変わります。

「三本線がメニューであることくらい、誰でも知っている」と私たちは思いがちです。しかし、WEBに詳しくない年配の方や、急いでいて注意力が散漫になっている人にとって、記号は記号でしかありません。言葉を添えるという行為は、「ここはあなたのための入り口ですよ」という、作り手の温かい声掛けなのです。

文脈(コンテキスト)を整理する

これからのナビゲーションに求められるのは、単なるリンクの羅列ではありません。
「なぜ、この項目がここにあるのか」 「このボタンを押すと、ユーザーのどんな悩みが解決するのか」
これを明確にすることです。例えば、単に「サービス紹介」と書くのではなく、ハンバーガーメニューを開いた後の見出しに「あなたの課題から探す」という一文を添える。AI時代だからこそ、人間らしい「導き」や「文脈の提示」が、サイトの信頼性を担保します。

失敗しないための「ハイブリッド型」ナビゲーションの提案

「結局、ハンバーガーメニューは使わないほうがいいのか?」
その問いへの私の答えは「NO」です。ハンバーガーメニューは、正しく使えば非常に強力なツールです。

私が推奨するのは、主要な項目は露出させ、サブ項目を格納する「ハイブリッド型」のナビゲーションです。

タブバー(ボトムナビゲーション)との併用

InstagramやTwitter(X)を見てください。主要な機能は常に画面下部に固定されています。これが最もストレスのない形です。

自社サイトにおいて、最も重要な3〜4つの項目(例:ホーム、検索、マイページ、問い合わせ)は画面下部のタブバーに。それ以外の「深い情報」を、ハンバーガーメニューに格納する。これが現在のモバイル設計における一つの完成形と言えます。

コンテンツ連動型メニュー

トップページ、サービスページ、ブログ記事。それぞれのページで、ハンバーガーメニューの中身を「可変」にするという高度なテクニックもあります。 今ユーザーが読んでいる内容に合わせて、次に必要になりそうな情報をメニューの上位に持ってくる。静的なメニューから、動的なコンシェルジュへの進化です。

WEB担当者のあなたへ

記事の冒頭で、ハンバーガーメニューは「思考停止」を隠すためのツールになりうると書きました。 もし、今のあなたのサイトのメニューが、ただの「リンクの山」になっているとしたら、それは非常にもったいないことです。

最後に、一つ確認していただきたいことがあります。
社内のメンバー数名に、現状の自社サイトをスマートフォンで見てもらってください。そしてこう頼んでみてください。 「〇〇という情報を探してみてほしい」と。

彼らがハンバーガーメニューを開くまでに何秒かかったか。開いた後、目的の項目を見つけるまでに、サイトの中をどれだけ彷徨ったか。その数秒間の沈黙の中に、あなたのサイトを最適化するための、すべての答えが詰まっています。

WEB制作は、技術の積み重ねであると同時に、人間への深い洞察の積み重ねです。 小さな三本線のアイコン一つにも、誰かを助けたいという意志を込めること。それが、AIがどれほど進化しても、決して代替されることのない「選ばれるWEBサイト」を作るための、唯一にして最大の戦略なのです。

もし「自社のメニューがユーザーに負担をかけていないか、一度専門家の目で見直してほしい」と感じられたなら、ぜひ私たちにご相談ください。アクセス解析の数字の裏にある、ユーザーの動きを読み解き、最適なWEBサイトを一緒に作り上げていきましょう。